会社の帰り道。
いつも信号にひっかかる十字路がある。
その横断歩道の前には美容室がある。
週に2,3回の頻度で、信号待ちをしているとそこにタクシーが止まる。
そうすると、美容室からがっつり髪型をセットした淑女が出てくる。
とてもつもなく上品にタクシーに乗り込む。
一体、何者なんだ。
毎度のことながら、結構びっくりする。
正体が気になってしかたがない。(まぁ、予想はついているけど)
私が知らない真実は美容院の人が知っているに違いない。
「誰も知らない」のように、自分たち以外(大人たち)が知らなかったなんてと怖ろしくなる。
あらすじは....
けい子(YOU)は引っ越しの際、子供は12歳の長男の明(柳楽優弥)だけだと嘘をつく。実際子供は4人いて、彼らは全員学校に通ったこともなく、アパートの部屋で母親の帰りを待って暮らしていたが……。
実際に起きた巣鴨子供置き去り事件が題材。
もし、これを韓国で映画化したらバイオレンスになる。
だけど、監督はこれをドキュメンタリー調にした。
リアルな子供たちの行く末を淡々と映し出した。
正直、流れていきすぎる気もする。
だが、だからこそ見える風景もある。
監督は残酷さを描きたかったんじゃない。
子供たちの中にあるピュアな心を見せたかったのだ。
子には親がいる。
親が子を育てる。
そんな当たり前のことすら存在してなかった。
本当にあった現実。
誰も知らなかったことを知る。
自分のお腹から出てきた子供を自分の恋愛のために置いてくる母親の神経は、子供がいない私でもまったく理解できない。
被害者は明らかに子供だ。
でも、怖いのはこの母親も子供だということ。
この母親にも親がいてその子供であるということ。
そう考えると、この母親も被害者と言えるのかもしれない。
だって、ちょっとでも罪悪感を感じていればここまでのことができるだろうか。
中学生以下くらいの子供しかいない状態で、たとえ生活費があったとしても普通に生活できるだなんて思うだろうか。
ちょっと考えれば誰だってわかる。
それが分からないこと自体異常。
この事件は、なるべくしてなった。
しかも、事件が起きてもすぐに誰も気付けなかったことが本当の怖ろしさではないか。
隣に住んでいる人の顔が分からない。
ちょっとおかしいと思っても逆に何かこちらもされるんじゃないかと関わることを避けてしまう。
子供を助けられなかったのは、親だけじゃない。
その背景にはやはり現代社会の闇が見える。
子供たちの自然すぎる演技を引き出した監督の力は大きい。
が、このナチュラルさは後半になるにつれてつらくなってくる。
多くを語ることなく、冷たく描かれる子供の感情。
無意味にも思える空白の時間。
劇的にではなく徐々に追い込まれていく環境。
もし、自分が親だったら
もし、自分がこの子供だったら
考えれば考えるほど怖ろしい。
静かで淡白な恐怖が漂う中に、誰も知らないという罪がある。
決して他人事ではない事件。
これを見て、家族とは親とは何かと自問自答し続ける。
二度とこんな事件が起きないためにも…と。
忘れることもまた罪である。
ちぶ~的どこまでだろう度5
あまりにも子供たちの演技が自然すぎて、どこからどこまでが演技なのか分からない。一瞬ホームビデオを見ている感覚になるくらいの親近感が後で余計怖くなる。